非常呼集

 まだ朝の4時ごろだろうか。
天幕〔テント〕の外に足音がする。
入口のシートをめくって助教〔訓練陸曹〕が入ってくる。
そして笛を吹いた。「ピッ」
「非常呼集。ただちに集合せよ。服装は迷彩服に半長靴、弾帯、戦闘帽着用。 場所は……」
一斉に皆飛び起きて非常な速さで着替える。
次の想定訓練が始まろうとしている。気持ちを切り換えるしかない。
暗闇の中、バディ〔相棒〕どうし声をかける。
「準備いいか?」「準備よし!」
天幕の外で全員整列し、号令によって集合場所まで駆け足で向かう。
キャンプ場の会堂に教官と助教が立っている。
教官が言う。
「報告。小声でせよ」
我々の隊のリーダーである学生長が点呼報告をする。
「第××期!」学生長。
「レンジャー!」隊員及び学生長。
学生長が続ける。
「総員17名、事故なし、健康状態異常なし!」
これからどんな想定訓練かが分かる。
時代はまだ米ソ冷戦が続いていたころだ。
教官が戦況とレンジャー戦闘隊の任務を説明する。〔命令下達〕
「敵ソ連軍一個機械化大隊がさらに進行、……県の……で……」
「情報小隊によれば……する模様。我々レンジャー戦闘隊は……へ潜入し……」
これから地図や武器弾薬など、作戦に必要な装備を整えて出発となる。
役割分担をしてそれぞれ準備にかかる。
長い地獄の訓練がまた始まった。
集中しなければならない。少しでも他の事を考えると気が変になるかもしれない。
俺は頭がおかしくなる事を恐れた。しかし考えるということも消したかった。
いったいいつから俺はここにいるのか。いつまでこれが続くのか。
もう思い出せなくなっていた。



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