「五輪書」枕をおさえる

宮本武蔵『五輪書』 
火之巻 枕をおさえるという事
より抜粋。

一 枕を押ると云事。
枕をおさゆるとハ、
かしらをあげさせずと云所也。
兵法勝負の道にかぎつて、
人に我身をまはされて、あとにつく事、悪し。
・・・
枕を押ると云ハ、我実の道を得て、
敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ
氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、
敵の打と云、うの字のかしらをおさへて、
跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。
・・・
敵我にわざをなす事につけて、
役にたゝざる事をば敵に任せ、
役に立ほどの事をバ、おさへて、
敵にさせぬやうにする所、兵法の専也。
これも、敵のする事をおさへん/\とする心、
後手也。先、我は何事にても、
道にまかせてわざをなすうちに、
敵もわざをせんと思ふかしらをおさへて、
何事も役にたゝせず、敵をこなす所、
是、兵法の達者、鍛錬の故也。
枕をおさゆる事、能々吟味有べき也。

枕を押さえるとは、敵に頭をあげさせない、ということ。
後手につくことはよくない。

枕を押さえるというのは、我が真実の道を会得して、敵にかかり合う時、敵が思うきざしを示さぬ内にそれを察知して、敵の「打」とうとする「う」の字も出させず押さえ、何もさせないこと、これが枕を押さえるという意味である。

敵の仕事は、役に立たない事ならさせて置き、役に立ちそうな事は押させて、させないようにすること、これが兵法で重要なことである。

が、敵のすることを、押さえよう、押さえようとするのも、実は後手である。
我が道に専念することによって敵の頭を押さえ、何事も役に立たせず、敵をこちらのいいように振り回すならば、これが兵法の達者であり、鍛錬の成果である。

枕を押さえること、よくよく吟味あるべきである。

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