「五輪書」奇特と稽古

宮本武蔵『五輪書』 
火之巻 序
より抜粋。

・・・
先、世間の人毎に、兵法の利を
ちいさくおもひなして、・・・
・・・わづかのはやき利を覚へ、
手をきかせならひ、足をきかせならひ、
少の利のはやき所を専とする事也。・・・

我兵法におゐて、・・・
・・・敵をうちはたす所の鍛練を得るに、
ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。・・・

・・・命をはかりの打あひにおゐて、
一人して五人十人ともたゝかひ、
其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。
然によつて、一人して十人に勝、
千人をもつて万人に勝道理、
何のしやべつあらんや。能々吟味有べし。
さりなから、常/\の稽古の時、
千人万人をあつめ、此道しならふ事、
なる事にあらず。獨太刀をとつても、
其敵/\の智略をはかり、
敵の強弱、手だてを知り、兵法の智徳をもつて、
萬人に勝所をきはめ、此道の達者となり、
我兵法の直道、世界におゐて、たれか得ん、
又いづれかきはめんと、たしかに思ひとつて、
朝鍛夕錬して、みがきおほせて後、
獨自由を得、おのづから奇特を得、
通力不思儀有所、
是兵として法をおこなふ息也。


世間の人は、兵法の利を小さく考えており、僅かばかりの早さを習得しようと、手を利かせ習い、足を利かせ習い、少しばかりの利の早いところを第一としている。

我が兵法では、敵を打ち果すために、小さいこと、弱いことは、考えない。

命がけの打ち合いにおいて、一人で五人十人とも戦って、その勝つ道を確実に知ること、それが我が道の兵法である。一人で十人に勝ち、千人で万人に勝つその道理をよく練るべし。

しかしながら、常に稽古の時、千人も万人も人を集めて、演習するわけにはいかない。一人で太刀をとっても、敵の智略を推測し、敵の強弱や作戦を察知し、兵法の智徳をもって万人に勝つところを極め、この道の練達者となり、我が兵法の直道(じきどう)を自ら率先して、朝にタに鍛練して磨き通すこと。そうすれば、自由自在に珍しい不思議な神通力が生じる。それが兵法の道を治めるこつである。

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