「五輪書」相手の攻撃を踏みつけよ

宮本武蔵『五輪書』 
火之巻 けんをふむと云事 
より。

7 けんを踏む

一 けんをふむと云事。
劔を踏と云心ハ、兵法に専用る儀也。
先、大なる兵法にしてハ、
弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、
何事にてもしかくる時、
敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、
其跡にかゝるによつて、又矢をつがひ、
鉄炮にくすりをこみ合するによつて、
又新しくなつて追込がたし*。
弓鉄炮にても、
敵のはなつ内に、はやかゝる心也。
はやくかゝれバ、矢もつがひがたし、
鉄炮もうち得ざる心也。
物ごとに敵のしかくると、
其まゝ其理をうけて、
敵のする事を踏付てかつこゝろ也。
又、一分の兵法も、
敵の打出す太刀の跡へうてバ、
とたん/\となりて、はかゆかざる所也。
敵のうち出す太刀ハ、
足にて踏付る心にして、打出す所を勝、
二度目を敵の打得ざる様にすべし。
踏と云ハ、足には限るべからず。
身にてもふミ、心にても蹈、
勿論太刀にてもふミ付て、
二の目を敵によくさせざる様に心得べし。
是則、物毎の先の心也。
敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。
其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。


大きな兵法(合戦)では、弓や鉄炮の場合でも、敵がこちらへ攻撃をしたその後に、反撃しようとすれば、敵は次の攻撃体勢をつくってしまう。それでは敵を追い込むことが出来ない。

したがって、敵が攻撃を始めたその最中に、すぐに攻撃にかかることである。早めに反撃し敵に次の攻撃の準備をさせないことだ。

どんなことでも、敵が仕懸けてくれば、それさえも活用して、敵のすることを踏みつけて勝つということである。

また、一分の兵法(個人戦)でも、敵の打ち出す太刀の後へ打つという受身の心では、捗が行かないものである。敵の打ち出す太刀は、足で踏みつけにする心で、敵の打ち出すところを打勝ち、敵が二度目を打てないようにすべし。

踏むというのは、足に限ったことではない。身体でも踏み、心でも踏み、もちろん太刀でも踏みつけて、二度と攻撃ができないようにしてやる、そのように心得ること。これがすなわち、どんな場合でも、先(せん)の心である。

これは、敵と同時に正面からぶつかるという意味ではない。すぐさま後につく、という意味である。よくよく吟味あるべし。

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